「渋いですね」の破壊力

もともと運動オンチなのもあって、

平昌オリンピックが始まる、という段になっても

正直、あまり中継などを観ようという気にはならなかったのだけれど、

家族が観ていたりすると、結局つられて観てしまう。

その時、家族が観ていた競技は、

スノーボード男子スロープスタイル。

競技そのものもとても変わっていて、

「ジブ」と呼ばれる非常に狭いレールやボックス型の足場を

どのように滑っていくかという部分と、

その後のジャンプ台でどのような技を決めるかという部分、

二つの形で構成されていた。

もちろん、出場選手たちの技も、

高く飛びながら回転したり、空中でボードを握ったりと、

素人の私が見ても「なんだか凄い」と思うくらい

見ごたえのある素晴らしいものだったのだけれど。

それより何より気になったのが、解説の方のコメントだ。

中井孝治さんという、元スノーボード選手の方なのだが、

選手たちが技を決める度に、

「カッコいいですね」「スタイル出てますね」

といった、独特のコメントが飛び出してきて、

その言葉たちに不思議と心を掴まれてしまった。

決して感情的で大げさな言い方ではなく、

比較的坦々とした「カッコいいですね」という言葉なのだが、

それがまた良いのだ。

もちろん、ズブの素人である私には、

その技を決めることが何故「カッコいい」と評されるのか、

正直に言ってさっぱり解らない。

それはどうやら隣で実況をしている

アナウンサーの方も同じだったようで、

「先程、カッコいいというコメントがありましたが……?」

と中井さんに質問をしていた。

中井さんは元々、ソルトレークオリンピックで5位入賞し、

かつ、その後もオリンピック代表として競技をしていたこともあり、

確固たる「基準値」があるようだった。

例えば、「カッコいい」という言葉が出た場合、

他の選手があまり行わないボードの掴み方(グラブと呼ばれる)や、

演技の構成などをしているのを目の当たりにすると、

「自分なりのスタイルを出していて、格好いい」

という風に自然と思えるのだという。

きちんと競技者としての経験から、

何故そのように評価するのか、という理由を、

何も解らない視聴者にも解りやすく解説してくれるその姿勢は

非常に好感が持てた。

特に私が気に入っているのは、

中井さんが口にした「渋いですね」という言葉だ。

この言葉だけ聞くと、何が「渋い」のかさっぱり解らないので、

妙に破壊力の高い、力を持った言葉のように響く。

これも中井さんがきちんと解説してくれていた。

他の選手が殆どやらないというのはもちろんなのだが、

例えば、スノーボード競技の歴史の中において

初期に使われることが多かったものの、

次第にどの選手も使わなくなっていったボードの掴み方などを、

それもまた「自分のスタイル」としてきちんと貫き、

どんな試合でもほぼ必ず使ってくるという姿勢に対して

「これは渋くて格好いい」と思えるのだそうだ。

どんな世界でもプロフェッショナルには基準値がある。

その基準値に照らし合わせながら、

基準値が解らない人にも理解しやすく説明するというのは、

知識や経験だけではなく、とても技術を要することだと思う。

文章を書く上でも、お手本にしたい方だなと、

心の中で密かにリスペクトし始めている。

中井孝治さん、カッコいい。